「すき」
…思わず言葉が詰まった。目が開かれた。
ただ目の前には、いつもへんてこなことばかりしくさっている男の、とても真面目な顔があって。
だから直ぐにいつものように返す言葉も、思わず喉の奥に引っかかって、だけれどそれを吐き出そうとした結果がどもりだった。
「な、なに」
「すきだよ」
有無も言わせないように、太子はそう繰り返した。
ああ、なにをいっているんだこの男は。誰にむかって。何にむかって。好きなんて。
「妹子が、…だいすき」
そしてその誰も何も、今ではもう確定済みだ。
何いってるんですか。冗談もほどほどにしてください。ありがとうございます。死ね馬鹿太子。
そんな太子の言葉に返す言葉なんていくらでも容易に頭に考え付くのだ。
なのにそれを言葉にできない。何故。
僕はただ、目の前の太子に向かって困惑を浮かべているだけだ。全ての言葉を喉に詰まらせて。
ああ今自分がどんな顔をしているのか全く理解がつかない。
今それが分かるのは目の前の太子だけ。
…太子は真剣そうな真面目そうな顔から、いつもの太子に戻るようにふと頬を緩ませると、声もなく何かを呟いた。
なに、と反射的に発した言葉はまたそれ以上の続きをいえることなく。
頬に触れた太子の手に、思わず身体が口の動きとともに身動きを止めて。
いきなり近づいてきた太子の顔に、どうしようもなくなって。頭も真っ白になって。
……そして近づいた顔は、すぐさま離れていった。
「ごめんね」
太子は緩く笑うと、何事もなかったかのようにするりと離れて、何処かへいってしまった。
消えた背中を追うことも出来ず僕はただ呆然として、ふと気がついたように右手で自分の唇に触れた。
(謝るぐらいなら、)
謝るぐらいなら接吻なんか、するなよ。
頭から離れることのなくなった彼の姿と、謝罪と告白と、全部がごちゃごちゃになって、僕はただ、泣きたくなった。
(実は掘り出し物に付け足したものです。シリアス脳だったんだなあ…)
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