聞こえる 聞こえない 聞こえる 聞こえない
(……人んちに勝手にあがりこんどいて)
僕はしゃがみこんだ姿で、全くもって無防備な青いジャージの阿呆摂政を見つめた。
人の居間で足も手もおおっぴろげにしている。なんという摂政様だ。
「…」
触れて、起こそうかとも思った。だけれど、その手はひっこめられた。僕の意思だ。
もう一回見つめた。よだれ垂らしてるし。どう見ても誰が見ても只のオッサンだ。
そう、ただの。ただのオッサンな筈なのに。只の、じゃなくて。
(ただのオッサンだったら)
(おんなじ人間で)
(おんなじ性別だったっていっても)
(こんなに悩むことはなくて)
もやもやと頭を流れていく沢山の思想。ぐちゃぐちゃになって広がって最後にはしぼんで消えていく。
そうするとなんだか、あまりにも無防備な彼の寝顔に何だか腹が立ってきて、じわりと目から溢れるものを拭った。
僕は、太子に顔を近づけた。正確には耳元だ。―――そして、静かに口を開く。
「 」
声にならない声は本当に声にはならなくて、思わず僕は苦笑いを零した。
聞こえる 聞こえない 聞こえない 当たり前だ。
聞こえなくていい。こんな想いなど。伝わってどうなるっていうんだ。
元々知らなくて良かった。こんな苦しい想いなら、伝える術も何もかも無くしてしまえば。
(だって貴方は酷く遠い、)
だから聞こえなくて良いんだ。
「太子の馬鹿野郎」
あんたには、この一言だけで充分だ。
(…目を覚ますタイミングを失ったな)
(お前のほうが馬鹿だよ、妹子)
(聞こえてる、聞こえてるのに)
(知らない振りをすればいいのかな、私は)
(私だってどうしようもないぐらいお前のこと好きなのにね、いもこ)
聞こえる? 聞こえない ううん、 聞こえてる。
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