肌がじりじりする。絶対に肌の色が変わっている。このジャージを脱いで鏡を見たくない。心底そう思った。
朝服よりは確かに動きやすくて効率的かもしれないが、肌に当たる日差しを抑えられるわけでもなく。
僕は恨めしそうに長袖の太子を見るだけだ。その視線に気づいたかのように太子が顔を上げた。
「何だよじろじろ見て。わたしは見世物じゃないぞ」
「いいですよねえ、お偉いさんは…。長袖長ズボンですもんね…」
「いきなり何を言うんだよ!私は摂政なんだから偉いのなんて当たり前だろー!」
そんなこと最初から知ってるよ。言ってみただけだ。
元々こんな変なジャージ政策を作ったのはあんたなんだから、反論できる訳もない。
今僕が思えることというのなら、このジャージの色が黒ではなくて良かったということだ。
黒だったら既に死んでる。絶対死んでる。暑くて死ねる。死ねる自信がある。
思わずそう考えた僕は死という単語を頭の中で連呼してしまったがやがてどうにもならないと考えため息をついた。
「さっきからどうしたんだよ妹子。お前おかしいぞー」
可笑しくさせたのは結局は全てお前のせいだ。そう言ってやりたいがこの暑さに既に負けている僕は口を開くことをやめた。
太子には哀愁の籠もった目で遠目に見ることによって自分の気持ちを伝えたつもりだ。
口を尖がらせた太子は空を見上げると「ああそうか」と気がついたようにそう言った。
そうすると急に、太子は服を脱ぎ始めた。
「なっ!?何やってんですかアンタいきなり!」
「まあまあ」
何がまあまあだ。というか変にオーバーなアクションをするんじゃない。
乗ってるのは僕と太子だけなのだから、どちらかが大きく動いたらこの小さな船だって揺れるのだ。
というか脱ぐなら座って脱げよ!何で立って脱ぐんだよ!
「よし」
自分では満足な結果になったのか、脱いで上半身裸になった目の前の男は(そういえばシャツ着てなかったこいつ)そのジャージを日に当てるように両手で持って風に仰がせた。
突拍子もない行動をすることで既に僕の中で有名になった太子だが、今回ばかりはフォローの仕様もない。
僕じゃなくもしこれを目にしたのが女の人であれば、「破廉恥!」「このわいせつ罪!」など言われて蹴りを入れられてもしょうがない。
それにしても、日に焼けて赤くなったり小麦色になっている僕とは違い太子の肌の色は病弱かと思えるぐらい白かった。
この人のこれ以外で外出しているのは僕はそんなに見たことはないし、ほぼインドア生活なのかもしれない。
いやそうだろう。この人は聖徳太子なのだ。籠もりきりの仕事生活でもしていたんではないだろうか。
その上にこの隋の生活も長袖長ズボン…いや、焼けている聖徳太子というのも想像すると案外気持ち悪い。
でも流石にこれは白すぎじゃあないか?この人が何歳かは詳しくは知らないけど、男性としては、
「おわっ!?」
「何じろじろ見てるんだよこの破廉恥めが」
視界が塞がれた向こうに太子の声が聞こえた。まて、今なにがあった?
何かに覆われている。大きいものに。それをどかすように両手で剥がすと、
「…ジャージ?」
先程まで太子が弄んでいたように思われた青いジャージだった。思わず太子を見るとにんまりと笑っていた。
「日に当たって肌が痛いんだろう。この私がそのジャージを貸してやる!ほらほら羽織れ羽織れ」
私ぐらいの身体だったら日に当たっても平気だからなと胸を張るように太子は言った。とてもそうには見えない。
「…といっても太子、このジャージ加齢臭がするんですけど」
「加齢!?ぬおー私はまだまだ若いわ!ハーブの香りだってどことなくするんだからな!」
「今まで一緒に居てきてそんな思いをしたことがないんですけど」
「ムキー!口が悪いなこの野郎!」
「でも」
…さっき弄んだりしていたのは、汗を乾かすためだったのかもしれない。ぱさぱさになっていた服を僕は腕を隠すように羽織った。
日に当たらなければいいのだ。暑いのには我慢してやろう。…折角のご好意なのだし。
「使わせては、もらいます」
ぶっきらぼうに言ったその言葉は、太子には心中に届いたようで太子の口角を上げさせた。
「素直じゃないなあお前は」
「五月蝿いですよ」
太子の香りが残るこのジャージを、一体いつまで羽織ってればいいんだろうと僕はそこから考える羽目となった。
「……いもこー」
「何ですか」
「肌がひりひりする…」
「この白魔人がっ!!」
「ばふぁ!ジャージ投げ返された!ていうか白魔人!?」
案外早くて助かった。
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